「品」と「格」
このゴールデンウィークに一泊でぶらりと福島まで行って来ました。実は、私は旅が好きなんです。とはいえ、鉄道はお金もかかるし、現地での移動も大変だし…。鉄道旅行はお金を自由に使えるまで我慢と思って、何年もしていませんでした。ところが、最近体調が悪く、救急車で運ばれたり、病院での検査が続いたりで、気が滅入っていました。気分転換にドライブでも~と思ったのですが、運転って意外と疲れるものです。酒も飲めないし…。そこで思い切って久々に鉄道旅行してしまいました。
スーパーひたち
上野発、朝10時丁度発の特急「スーパーひたち」です。20年ぶりの上野駅長距離列車ホーム。10時きっかりに特急は動き出しました。日本の鉄道は凄いですよ。正確さや高度な技術は、日本の頭脳の集結と言っても過言ではありません。昔の国鉄マンは国鉄に誇りを持っていました。尼崎や酒田の大事故もありましたが、今のJRにも引き継がれていると思いました。
それはさておき、水戸まで1時間、福島のいわきまで2時間です。車内販売の生ビールを3杯も飲んでるうちに降車駅のいわきに到着、列車のスピードにも驚きました。
昼12時いわきに到着。1時間の待ち合わせ! さすがローカル。この空いた時間は駅弁でしょう。うなぎ弁当1200円。肉厚でプルプルのうなぎ!! 駅弁もなかなか~。ここから磐越東線に乗り「三春」へ~
坂上田村麻呂伝説
この三春町は坂上田村麻呂伝説で有名なところです。平安初期、坂上田村麻呂は桓武天皇から「征夷大将軍」に任命され、反乱勢力「蝦夷」を成敗しに東北に向かいます。
この三春は激戦の地でした。形勢が不利になった田村麻呂は、仏像を削った残り木から100体の馬を彫ります。この馬が、仏様の力で本物の強靭な力を持つ馬に生まれ変わります。その馬の力で、田村麻呂は蝦夷の軍勢を打ち倒し、朝廷の力を東北にまで広げます。戦いを終えた馬たちはもとの木像に戻ります。この木の馬の像が「三春駒」として、三春町の民芸品の代表になっています。
三春の桜
お待ちかねの三春。ここで懐かしい元BRAIN 教師(恐怖の酔っ払い)佐野先生と合流です。おっさん二人の珍道中が始まりました。
三春は町中が桜です。まずはタクシーで最も有名な「滝桜」見物。さて、乗ろうとしたとき、妙なおばさん登場。「一緒に滝桜までタクシー乗りましょう」と言われ、片道2000円もするので同乗、おばさんは車内でも一言もしゃべらず…。おっかなかったです。
それにしても、滝桜、圧倒されました。しだれ桜ですが、こんな桜、見たことありません。樹齢1000年。1000年もの間、この地でこの町を見守っていたのでしょう。立派な桜です。そういえば、この三春の桜には、東京の桜と違うものを感じました。それは品格なのでしょう。この桜を前にして声も出ません。声を出すことが失礼であるような、その格の高さに驚嘆しました。
三春の町
さらに、町自体が東京では考えられない雰囲気でした。町役場前の大通りを中心として、街並みの美しさ。あのいやらしい「電柱」はすべて地中にあり、街灯の美しさも際立ちます。さらに、役場前の大通りに面する家は、すべて新築!! ガードレールもなく、かわりに1mくらい高さの石でできたポールが2mおきに並んで立っており、そのポールのてっぺんには花が植えられていました。近代的な美しさと伝統の美しさとが、ばらばらではなく見事にマッチした美しさと言えるでしょう。
後日、役場に問い合わせたところ、町のプロジェクトとして、このような街づくりをしたそうです。土地さえあれば、周りの景観を無視してでも高層マンションをバシバシ建ててしまう東京とは大違いです。東京との違いは、一言で言えば「品」と「格」です。昔の日本人には品があったなー…。
天ぷら三昧
さて、三春の町を後にして、福島第一の都市郡山で腹ごしらえ。この二人というわけで、すぐ「ビール!!」。結局、新幹線も予定の2本後に…。それにしても新幹線は速い。暴力的な速さです。郡山から福島まで18分。在来線を通れば1時間近くかかるのに…。
佐野宅には夜8時ごろ到着。ここに福島飯坂温泉に住んでいる共通の友人渡辺茂氏もやってきて宴会。久々に楽しみました。
渡辺さんが近くの川で釣ってきた「かじか」や「どじょう」、渡辺さんの畑周辺に生えている「よもぎ」「たらの芽」「のびる」「やまいも」などなどがおつまみです。かじか、どじょう、よもぎ、たらの芽はそのまま、山芋はすりおろして海苔とこねての佐野料理長による天ぷらでした。こてこての衣でなく、薄い衣で食材本来の味が味覚を刺激します。のびるはそのまま味噌につけて。うまかったな~。自然がそのまま味わえました。へたなソースなどは必要ないですね。
豊かさと同時に、やはり「品」を感じました。舌にあわせて欲望の赴くまま、な~んていう世界ではないんです。
翌朝5時半、佐野宅を出ました。渡辺さんが駅まで送ってくれ、鈍行列車が出るまで見送ってくれました。感謝!! もちろん、佐野先生は家で寝こけていますが…。福島から朝一番の新幹線で東京駅まで。吉祥寺に朝9時過ぎに到着。そして、いつもと同じように仕事が始まりました。
ラシュワン
ところで、ボクシングの亀田兄弟好きですか? 私は嫌いなんです。対戦相手を前にして、ものを食べながら記者会見に臨んだり、対戦相手を馬鹿にするような言葉を平気で吐く。最近の格闘技も嫌いです。K1だかプライドだか知りませんが、相手を威嚇し、罵り、馬鹿にし、「腕をへし折る」などと公言する。なぜ、試合の中身で勝負しないんでしょうか。
ロサンゼルス・オリンピックの柔道無差別級決勝を覚えていますか。エジプトのラシュワンと山下の決戦です。山下は前の試合で右足を負傷、歩くのもやっとの状態でした。その右足を攻撃すれば、ラシュワンは金メダルを手にすることができた。しかし、彼は負傷した山下の右足への攻撃を「信念に反する」と、一度も攻撃せず、山下の世界一の寝技に破れ、エジプト柔道初の金メダルの夢は露と消えていきました。
もちろん山下は素晴らしかったが、ラシュワンは美しかった。このとき、柔道の本当の姿を知りました。柔道はスポーツではない、「武士道」であるということを。
忘れていたこと
今の世の中、特に東京では、欲望をむき出しにして、表出することが良しとされているようです。亀田兄弟のリングで、キャーキャー騒ぐ若い女たち。さらにいえば、暴力という力だけ自分を正当化するテロリズム。力が正義と唱えているアメリカなどなど。これらに足りないものは何でしょうか…
この旅行は、忘れていた大切なことを思い出させてくれました。当時の国鉄が、幾多の苦難を日本最高の技術によって克服し築き上げた鉄道網、坂上田村麻呂伝説の仏への真摯な祈り、1000年も姿を変えずに凛として立つ滝桜、三春の町をかけた美しい街づくり、そして、自然本来の姿を味わうことのできた料理などなど…。
これが「品」であり、ものの「格」なんだな~。そしてこれを追求するものが「道」であると実感しました。
BRAIN の生徒たちにも、将来「品」とか「格」などというものがわかるような、豊かで深い心を持った人間になってもらいたいと思う今日この頃です。
BRAIN TRUST INFORMATION No.69